平成23年度 所得税の主な税制改正
平成23年度の税制改正は、 東日本大震災の影響と政治の混迷によって、棚上げ状態のまま、成立が大幅に遅れました。結果的に、閣議決定された税制改正法案の一部を切り出して、6月末に公布されました。加えて、積み残しの法案について、異例の12月改正が行われました。
「現下の厳しい経済状況および雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律」とし、本年度の改正内容となりました。
税務署が発行する「平成23年度 所得税の改正のあらまし(国税庁)」と「平成23年度12月の所得税の改正のあらまし(国税庁)」から、主な改正内容と平成23年度から適用される事項について、フリーランス、個人事業主に関連する項目をピックアップしてお知らせします。
確定申告の手続きに関する改正
年金所得が400万円以下の場合、確定申告書の提出が不要に
公的年金などの収入金額が400万円以下で、雑所得以外の所得金額が20万円以下の場合は、申告手続きの簡素化を図るために、確定申告書の提出が不要になりました。
※平成23年分以後の所得税に適用。
還付申告書の提出期間の変更
確定申告書の提出期間について、申告義務がある人(*)の還付申告書の提出期間が、1月1日から3月15日までになりました。
*申告義務がある人とは: 年間の所得合計金額が所得控除の合計金額を超え、その超える金額に対する税額が、配当控除額と年末調整の住宅借入金等特別控除額の合計額を超える人。
※平成23年分以後の所得税に適用。
所得控除の改正
年少扶養控除の廃止 【増税措置】
こども手当支給に伴い、平成22年度の税制改正で「年少扶養控除」が改正されました。平成23年分から適用になります。
- 16歳未満の親族に対する扶養控除(38万円)が廃止。
- 16歳以上19歳未満の親族について、扶養控除(38万円+25万円)のうち上乗せ部分の25万円が廃止され、扶養控除額は38万円になります。
※平成23年分 所得税の改正のあらまし(税務署)より。
税額控除の改正
税額控除とは、所得税額(支払う税金)から差し引かれるものです。
寄付金特別控除の創設
- 認定NPO法人寄付金特別控除が創設
認定NPO法人寄付金特別控除が創設されたことで、個人が認定NPO法人に対して寄附をした場合、所得控除として寄附金控除の適用を受けるか、又は次の算式で計算した金額について税額控除の適用を受けるか、有利な方を選択することができます。▼特別控除額の計算式
(認定NPO法人への寄付金合計額-2,000円)×40%=認定NPO法人寄付金特別控除額
※平成23年分以後の所得税に適用。 - 公益社団法人等寄付金特別控除の創設
同様に、公益社団法人等寄付金特別控除が創設されました。公益社団法人等へ支払った特定寄附金のうち、一定の要件を満たすものについては、所得控除として寄附金控除の適用を受けるか、又は次の算式で計算した金額について税額控除の適用を受けるか、いずれか有利な方を選択することができます。▼特別控除額の計算式
(公益社団法人等への寄付金合計額-2,000円)×40%=公益社団法人等寄付金特別控除額
※平成23年分以後の所得税に適用。寄付金合計額は総所得金額の40%相当額が、特別控除額は所得税額の25%相当額が限度になります。控除対象となる寄附金額限度額と控除対象下限額(2,000円)は、寄附金控除(所得控除)・認定NPO法人寄附金特別控除・政党等寄附金特別控除の対象金額を合計した金額になります。税額控除の限度額は、認定NPO法人寄附金特別控除と公益社団法人等寄付金特別控除の合計金額が対象になります。詳しくは、納税される税務署へお問い合わせください。
電子申告(e-Tax)の特別控除額の引き下げ
電子証明書等特別控除(e-Taxで申告すると控除)は、適用期限が2年延長されましたが、控除額が最高5,000円から以下の金額に引き下げられました。控除を受けられるのは、1回のみになります。
平成23年分 → 最高4,000円
平成24年分 → 最高3,000円
住宅減税の改正
住宅減税について、 改正が行われました。該当する場合は、「平成23年分 所得税の改正のあらまし」 のP.4~P.5を参照してください。
※平成23年6月30日以降に締結した契約について適用。
- 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合: 住宅借入金等特別控除
- 増改築をした場合: 特定増改築等住宅借入金等特別控除
- 耐震改修工事をした場合: 住宅耐震改修特別控除
- バリアフリー改修工事をした場合: 住宅特定改修特別税額控除
申告書を故意に不提出した場合の罰則が強化
所得税の納税義務がありながら、故意に確定申告書を提出期限までに提出しなかった場合、ほ脱犯の創設により、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が課せられます。
※改正公布の日から2月を経過した日以後の違反行為について適用されます。
消費税の免税事業者の要件が変更 【増税措置】
消費税の課税売上高が、上半期(1月1日~6月30日)で1,000万円を超える場合には、その翌年から課税事業者になります。
【改正前】 年間で課税売上高が1,000万円を超えた場合 → 2年後から課税事業者に
【改正後】 上半期で課税売上高が1,000万円を超えた場合 → 翌年から課税事業者に
※平成25年以降の事業年度に適用されます。
東日本大震災の被災者に対する税制上の措置
被災された方の負担軽減を図る「震災特例法」
東日本大震災で被災された方の負担の軽減を図るため、震災特例法が施行され、所得税関係では、次のような特例措置が講じられています。
- 雑損控除の特例 (損失額の繰越期間の延長 等)
- 災害減免法による税金の軽減免除の特例
- 被災事業用資産の損失の必要経費算入に関する特例 (繰り戻し還付、損失の繰越期間の延長など)
- 住宅借入金等特別控除の適用期間に係る特例 (適用期間の延長)
- 被災代替資産の特別償却
- 特定の資産の買換え等の場合の譲渡所得の課税の特例 等
各特例の内容は、「平成23年分 所得税の改正のあらまし」 のP.14~P.16に掲載されています。詳しくは、最寄りの税務署へご相談ください。 電話で相談が行えます。
震災関連寄附に係る寄付金控除及び税額控除の特例
震災特例法により、平成23年3月11日から平成25年12月31日までの間に行った震災関連寄附金について、次のような措置が講じられました。
- 震災関連寄附金の寄附金控除の限度額: 総所得金額の80%まで
- 認定NPO法人、共同募金会連合会へ震災関連寄附金を行った場合: 寄附金額が2,000円を超える金額の40%まで(所得金額の25%を限度とする)、所得税額から控除されます。
※前掲の寄附金控除の創設の項を参照してください。
【関連情報】
平成23年分 所得税の改正のあらまし
平成23年度 所得税の12月改正
平成23年度の税制改正は、混迷を極めた結果、閣議決定された法案のうち一部を切り出して、6月末に公布されました。加えて、積み残しの法案について、異例の12月改正が行われました。主な改正内容は次の通りです。
白色申告者にも記帳義務・記録保存義務が発生
白色申告の場合、前々年あるいは前年分の事業所得金額が300万円を超える場合に課せられていた記帳義務・記録保存義務が、300万円以下の人についても同様に課せられることになりました。
【改正前】 白色申告/事業所得300万円超 → 経理帳簿の記帳&書類の保存が必要
【改正後】 白色申告/事業所得金額に関係なく、経理帳簿の記帳&書類の保存が必要
※平成26年分の確定申告から適用されます。
更生の請求期間の延長
確定申告や決算書の記載内容に誤りがあり、税金を納め過ぎていた場合、税務署へ「更正の請求書」を提出すると、税金の還付を受けられます。
これまで、請求期間は、原則として確定申告書の提出期限から1年以内となっていました。この期間が、5年に延長されました。また、改正により、更生の請求を行う場合は、その「事実を証明する書類」の添付が必要になりました。
【改正前】 平成22年分: 確定申告書の提出期限より1年間
【改正後】 平成23年分~: 確定申告書の提出期限より5年間
※平成23年分以後の所得税に適用されます。
減価償却制度の改正
定率法の償却率の引き下げ
減価償却資産の償却方法において、「定率法」の償却率が、次のように変更されました。「250%定率法」から「200%定率法」へ償却率が引き下げられたことで、購入当初に経費にできる「減価償却費」の金額が少なくなります。
- 平成24年3月31日までに取得 → 250%定率法 (「定額法」の償却率を2.5倍した償却率)
- 平成24年4月 1日以降に取得 → 200%定率法 (「定額法」の償却率を2.0倍した償却率)
※償却率の改正に伴い、改定償却率及び保証率についても変更されます。
経過措置として、次のような特例があります。
-
【経過措置/特例1】 定率法を採用している人が、平成24年4月1日~12月31日までの間に減価償却資産を所得した場合には、改正前の償却率で償却することを選択できます。特に届出する必要はありません。
-
【経過措置/特例2】 平成19年4月1日~平成24年3月31日の間に取得して「定額法」を採用している減価償却資産について、確定申告期限までに「200%定率法の適用を受ける旨の届出書」を提出すれば、改正後の償却率を採用することができます。
※この特例を受ける場合は、該当する期間に取得した資産全てが対象になります。一部だけ適用を受けるということはできません。
※減価償却費の計算は、改正耐用年数省令附則別表(経過年数表)を用いて、耐用年数を算出して行います。
※平成24年度において、調整前償却額が償却保証額に満たない減価償却資産については、均等償却により償却を行うこととなるため、この特例措置の適用を受けることはできません。
損失分の繰越控除について
純損失・雑損失の繰越控除の適用を受けるには、これまで、「損失が生じた年分の確定申告書を期限内に提出していること」が要件でしたが、「損失が生じた年分の確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合」へ改正されました。
※平成23年分以後の所得税に適用されます。
- 「純損失」の繰越控除
事業所得などに損失(赤字)がある場合、他の所得と損益通算しても損失の金額が残る場合は、前年又は翌年以降3年間に渡って、その赤字分の金額を繰越控除することができます。これは、青色申告者の特典の1つになります。 - 「雑損失」の繰越控除
所得控除の「雑損控除」について、その年の所得金額から控除できなかった場合、翌年以降3年間に渡って、差し引くことができなった金額を、繰越控除することができます。
【関連情報】
申告書第四表(損失申告用)
損益通算の計算書
変動所得・臨時所得の平均課税について
変動所得及び臨時所得の平均課税について、適用を受けるには、所得計算に関する明細を記載した書類の添付が必要になりました。
※平成23年分以後の所得税に適用されます。
e-Taxで省略した添付書類の保存期間の延長
e-Taxを行った際、確定申告書に添付を省略された書面について、税務署が提示・提出を求められる期間が3年間とされていました。これが、5年間に延長されました。
【改正前】 e-Tax/添付書類の保管期間: 原則として3年間
【改正後】 e-Tax/添付書類の保管期間: 原則として5年間
※平成23年分の確定申告から適用されます。
【関連情報】
平成23年12月の所得税の改正のあらまし